9月3日-Chicagoアナザーストーリー-

鼻水がとまらない。体が重い。のどと鼻がつながっている部分がじんわりと痛い。

無名時代のフランクロイドライトが旗を揚げた街、シカゴ。
その街でバラクオバマもまた、その存在を世に示すことになる。
そんな偉大な先人たちに遅れること数十年、無名の私もまたこの街を訪れた。
後部座席で風邪と戦いながら。
向かいの席では助手(その2)が地球の歩き方をひろげながら駐車場を探している。
たぶん歩き方を指南する本に車を停める場所は載っていないと思うのだが、指摘する元気もあまりない。
指摘すれば私が探す羽目になる。風邪との戦いがおろそかになる。それはまずい。

しかし持って生まれた性分というものは、どこへでも持って行けるらしい。

たどり着いた駐車場は駅の目の前だった。ただ、目の前の駅に生きてたどり着ける可能性は5分5分か、それより少し分が悪かった。
煮えたぎる湯にひとすくいの水をかけたような静寂をたたえるその地区を、人はサウスサイドと呼ぶ。
シカゴ最大のギャングの根城で、100人に4人は暴力犯罪の被害者。ブルースとヒップホップの上にささやかに覗く青空と、立ち込める厚い雲の街。

別行動の理由は、たいていが体調不良か方向性の違い。

近所のコンビニへスポーツドリンクを買いに行った。
コンビニは通りから店内が見えないよう、窓がポスターで覆われている。
そこで行われる取引を他人に見せない、いい仕事だ。プライベートを守る最先端をゆくコンビニ。
中では黒人の店員が黒人の客と何やら聞き取れない言語で喋っている。
おもむろに店員がレジの裏から小さな包みを取り出すと、客は満足げに受け取って帰っていった。
私はそこで、Sugar入りのゲータレードを買った。
15セントのお釣りをもらえるはずだが、くれなかった。まあいい、緻密なウィンドウ・アートへのチップだ。

RVのあらゆるカーテンを締め切り、息を殺してベッドにもぐりこむ。
もしグランドセフトオートなギャングが押し入ってきたら拳銃沙汰もやぶさかではない。
中心部へでかけた三人は日が暮れるまでに帰ってくるだろうか。もしくは、帰ってこないだろうか。
彼らがどの状態にあっても、今の私には助けにならないという点で一貫している。
カーテンの隙間から見える、突沸しそうにうずまく湯気を気にしながら、
私は眠りについた。遠くにパトカーのサイレンが響いている。
この街に、砂糖のようにとけこめ。

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