血糖値が下がっている
頭に冷や水を浴びせたような感覚がつたう
場所はウォルマート、8月31日
歯がとろけそうな甘さに”‘No Sugar”の文字が踊る特売のゲータレードが私のランゲルハンス島を狂わせてしまった。
血糖値の乱高下が収まらない私はマクドナルドで体と血糖値を落ち着かせ、みんなとは別行動になった。
2時間の格闘を経て、街へ繰り出す。
ボイラー室のような暑さをトランペットの音が反響し、施しを求める老人が練り歩くニューヨーク地下鉄のホームには、
長くこの街を支配している独自のストーリーが思い起こされる。
目指す場所はニューヨークの舞台裏、ブルックリン。マンハッタン島から銀色のメトロで40分。広大な墓地を抜け、ターミナル駅をすぎてさらに行った先
有刺鉄線にかこまれたCanarsie-Rockaway Pkwyで下車する。
通りにはニューヨークという言葉から想起される色気と華やかさはなく、くすんだ煉瓦とコンクリートが夕日に照らされて魅力的に光っている。
人通りは多く、みななるべく家の中にとどまらないようにしているように見える。しずかな時間と、どこかそわそわした空気が混在している。
そんな街を3ブロックほど歩いた先に、私がアメリカに来た理由その1、Gomberg Selzer Worksがある。
Selzerとは炭酸水のこと。瓶詰されて日本の瓶牛乳のように各家庭に配達されていたらしい。
そして日本の瓶牛乳のように、もっと軽くて丈夫でいつでも買えるスーパーの商品に圧されて大きく衰退してしまった。
Gomberg Selzer WorksはそのNY最後の生き残りなのだ。
しかし、そのNYの歴史の断片を見に行った私の期待は裏切られた。そう、到着が遅すぎて閉店していたのだ。
私はスーパーの清涼飲料のせいで衰退したSelzerに、スーパーの清涼飲料のせいで会えなかったことになる。
またNYに行く理由ができてしまった。またこの店がなくならないように祈り続けなければならなくなった。やり残したことその1。
鈍色のメトロに乗って表舞台マンハッタン島へ帰りながら、そのあとの計画を練る。
目黒とNYに出店しているUtility Canvasはアメリカに来た理由その2だ。NYの画家が自分の画材を入れるカバンを作り、それをヨットのセイル工房が製造するようになった。
20年で出したモデルは2,3個。荒々しい生地と精緻な縫い目がコントラストを放つ帆布バッグのブランドだ。でも、すでに営業時間は終わっているようだ。
FabLab NYがその3、様々なクリエイターが集まるNYでFabLabがどのようなものを世に送り出しているのか、とても興味があった。でも、すでに営業時間は終わっているようだ。
やり残したことその2、その3を吸殻がくすぶる地下鉄の排気口に捨てて街を散策することにした。
中心からロウワーマンハッタンへ歩いていくと、少しずつニューヨークの濃度が高まっていく。ニューヨーカーの生活を形作るモノを提供する店が並ぶ。
一つ一つが大きな街で個性を発揮しようとちいさな芽を広げている。観光地としてのニューヨークを離れていくことに感動をかみしめながら路地裏の店に潜り込む。
その場所に溶け込んだようなふりをして、ニューヨーカーを演じながら遊んですごした。
3時間をつぶしても、別れた仲間からの連絡はない。だいじょうぶだ、ミュージカルの終了時間は覚えていないけど。

